最近、赤ちゃんを連れていると、他人から話しかけられる頻度が明らかに増えたと感じる。
「かわいいですね」「何歳なんですか?」といったマイクロコミュニケーションが、日常のなかで何度も発生する。もちろん赤ちゃんはまだ喋れないので、結局は私と相手との会話になるのだが、これが自然な会話のスターターとして見事に機能していることに気がついた。
2000年にイギリスで行われた実験でも、一人で歩く人と犬を連れて歩く人を比較したところ、犬と一緒にいる人のほうが社会的交流の頻度が高く、特に見知らぬ人から話しかけられることが多かった という。
つまり、犬や赤ちゃんという存在がいるだけで、その人とコミュニケーションをはじめるハードルがぐっと下がるのだ。
MITメディアラボの教授であるKarrie Karahaliosは、自らの研究のなかで、こうした「人々の交流を自然に誘発する仕掛け」をSocial Catalyst(社会的触媒) と定義している。その人自身は何も変わっていなくても、仕掛けがあることでコミュニケーションが活性化されるという性質を「触媒」という言葉で巧みに表現している。
この概念は、主に空間設計の文脈で語られることが多いようだ。
公共空間におけるパフォーマー、ちょっとしたいざこざ、印象的な眺め、人気のフードトラック。こうしたものが、空間の活気を高める触媒になるとされている。
これを拡張して解釈すれば、プロダクトや遊びもまた、社会的触媒になりうるのではないか。
ドイツに滞在していたとき、多くの公園には卓球台が置かれていて、初対面の人どうしが楽しそうに遊んでいる光景をよく目にした。自分も何度か参加した。オランダでは、川沿いにテーブルを広げ、見知らぬ人とチェスを楽しむ様子によく出くわした。
コミュニケーションの触媒となるプロダクトや遊びがその場にあれば、本人のコミュニケーション能力によらず、人との交流を自然に増やしていけるのではないだろうか。
ちょっとしたプロダクトがあるだけで、そこにコミュニケーションが生まれる。
これはプロダクトデザインに、「美しい形をつくる」だけでなく、「人をよいコミュニケーションへ誘う」という価値があることを示している。